お隣さん

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響く声、弾ける水音に、アルケインは鼻歌を口ずさみながら小綺麗なガラスの小瓶に手を伸ばす。 キュッと小瓶の蓋を開ければ、ほんのりと香る良い匂いに、アルケインは嬉しくなり、それを手のひらの上でゆっくりと傾けた。 「あっ!」 小綺麗な小瓶の口から何も出なかったからだ。 振っても中身が出てくる事はなく、アルケインはガックリとうなだれる。 「まさか洗髪水が無くなるとは…」 こんな時に限って、自宅ではなく、外出先なわけで、しかも宿舎の浴室である。 「どうしたものか…」 思考をあれこれ巡らすが、ネクロスは男性のそれも人間の将軍がほぼ皆無である。 自身の運の無さに気持ちは急降下… だが、洗わないわけにはいかなかった。 何せ戦場から帰ってきたばかり、泥も血も埃も被っている。 「最悪ですね… ネクロスで男と言ったら… ………………っ!!」 ハッと思い付きアルケインの唇は弧を描く。 「ふふ… レオニール殿が居るではありませんか!」 ビバッ!お隣さんである。 案の定宿舎の壁は薄い。 アルケインは迷わず彼の名を呼んだ。 「レオニール殿!」 呼ぶ声が聞こえたのかレオニールの足音が壁際に近付いてきて問われる。 根が真っ直ぐな彼だ。 嘗ての敵であってもほっておくことが出来なかったのかもしれない。 「アルケイン将軍何ですか?」 「実は洗髪水が無くなって貸しては貰えないだろうか?」 「洗髪水ですか…」 暫しの間が空いてから、分かりましたと返事がしてアルケインはホッとする。 「持つべき物はやっぱり誠実なお隣さんですね。」 さて今のうちに顔でも洗いましょうかと、洗顔料に手をかけた瞬間ハタッとアルケインの手が止まる。 「洗・顔………… …………………顔っ!!」 慌てて仮面を探すが辺りには見当たらない。 よくよく思い出すに、そういえば仮面は寝室で外したのだと気付く。 「どどどどうしましょう。」 慌てふためくアルケイン、その頃レオニールはレオニールで困っていた。 「まっまさか“これ”しか無いとは…」 レオニールは震える手で“これ”を掴み握り締めていた。 「アルケイン将軍がお洒落好きというのを心得ているのに…オレはっ!!」 何故もっとちゃんと自分の洗髪水の分量を見ておかなかったのだろうと、真面目な彼はショックのあまり地にひれ伏した。 レオニールは憎々しげに手の中の“これ”を見る。
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