お隣さん

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一度“これ”で髪を洗いレオニールは痛い目にあっていたからだ。 「“これ”を使うのか…」 “これ”を使った日の事を思い出す。 “これ”はとある人物から寄越された物だった。 自分と“これ”を寄越した彼とでは根本的に髪質が違っていた為か、レオニールには“これ”が合わなかった。 故にレオニールの髪は次の日とんでもない事になったわけで… “これ”を寄越した彼から笑われ、今や捕らわれの身であるアキレス陛下に笑われ、女性陣に笑われ、もう散々だった。 しかも「男なら黙って“これ”だろ?」と言われ寄越されたので、自分は本当に男なのかと苦悩もした。 「これをアルケイン将軍に?」 アルケイン将軍はこれを寄越した彼とは絶対に髪質が違う。 きっと自身の使う洗髪水よりもずっとずっと高価な物を使っている筈だ。 「流石にまずいだろうか? 否、まずいだろう絶対…」 だがこれしかないのだ。 そして自前の洗髪水が無くなっていたレオニールもまた、これしかないのだ。 「アルケイン将軍… 明日は共に笑われましょう。 すみません!」 レオニールはマサムネの石鹸を手に部屋を飛び出した。 その頃アルケインは脱衣場でタオルを片手に立ち尽くしていた。 「これを顔に巻いたら…」 腰にタオルを巻き、タオルで目隠しをした自分… 絶対に変だと思った。 「どうしたら…」 この際顔なんて見られたっていいじゃないか! 開き直りたい。 だがそれは無理だった。 レオニールはきっと口がかたい。 だが、いつ誰の口から陛下にアルケインの素顔の情報が伝わるかは分からない。 「もし陛下にバレたらまた牢屋に…」 アルケインには、以前陛下のイメージをぶち壊し、牢屋から解放されなかったという思い出がある。 だから、素顔という秘密は、ある意味陛下にとって、最大の楽しみであるに違いないと考えた。 陛下からしたら、アルケインの仮面と顔は、既にくっついてしまっていて、外れないのではないだろうか…ぐらいにしか思っていない為、陛下にとってアルケインの素顔など、毛ほどにも興味がないという事を、アルケインは知らない。 故にアルケインは自身より遥かに幼い陛下(もう大人だが)の夢を壊してはいけないと思っていた。 だがこのタオルを巻いたら、せっかくお隣さんとなったレオニールに変態だと思われてしまう。 密かに友情を築いていこうと考えていたアルケインは、もう泣きそうだった。
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