‐Coffee Maker‐

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私が黙っていると、 母は、はっ…と我にかえり、 小さな声で ごめんなさい…と呟いた。 「それだけは、 聞きたかったから…。」 申し訳なさそうな顔をし、 しゅんと頭を垂れて、 隣の部屋のソファーへと座った。 私は母のそんな姿を見て、 本当に子供みたいな人だと 心底思った。 何を言っているのだ? ここまで 女手ひとつで私を育て、 自分の身を削ってまで 私を学校にいかせてくれて、 夜の仕事をしてるのに 酒にもタバコにも男にも 溺れることはなく、 いったい母は 何が楽しくて生きているの? と、聞きたくなるくらい 苦労している母が、 どうして そんなことを聞くのだろう? 確かに、 いつも私のそばに いれるわけではなく、 寂しい思いをした時期もあった。 母が水商売をしていると 学校でイジメられ、 母に八つ当たりしてしまった事もあった。 けれども、 それは全て私のため 生活のためだったのだと、 大人になった今の私は理解し、感謝している。 なのに、 母は分かっていない。 母は、 私より子供だから、 それを自分で理解していない。 それを 私が理解しているのだと 母は理解出来ていないのだ。 寂しい思いを させてしまった…と、 きっとそれだけしか 頭にないのだろう。 本当に、 なんてバカで子供な母。 私がそんなに信用出来ない? 別に、 貴女の子供だからって 貴女の様に生きると 決まってるわけじゃ ないんだから…ね? だってそういう風に、 幸せなコーヒーを 作れるお湯になれるよう、 ちゃんとした コーヒー豆を選び抜き 心の底から染まり落ちることが出来るよう そう、愛し育てくれたのは 母さん…貴女じゃない。
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