五百円玉の記憶

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 「海星グループ破産」という文字が地元紙にでかでかと載ったのは、中学三年のある朝のことだった。ぼくが住んでいるこの田舎町で、海星を知らない人はいないだろう。  三年前、子供たちの遊び場であった広場に、大きなホテルが建った。白くそびえたつその建物は、住人のほとんどが農家や漁師として暮らしていた町にはあまりに不似合いなものであった。しかしながら、太平洋の絶景を一望できるそのホテルは、すぐに人気が集まり数多くの観光客を呼び寄せた。建設当初こそ不満を漏らす人々がいたものの、廃れていた町が一転、人で賑わう町になったのだからもう誰も文句は言えない。海星グループはこの町を中心に次々と経営規模を拡大し、この地域を牛耳るようになった。  その海星が潰れたのだから、騒ぎにならないわけがない。学校でもしばらくその話題で持ちきりだった。しかし不思議なものだ。一か月もすると、町は元の静けさを取り戻していた。急速に盛り上がったものは、冷めるのも急速らしい。長い間農業や漁業でそれなりにやってきた町であったから、元の生活に戻るのも容易だった。今見てもやはりこの町に不似合いな白いかたまりだけがあとに残された。  
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