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「人を、殺してきた……」 「え? 何のジョーク? エイプリルフールならまだ先よ」  窓から月明かりの差す枕元で、クスリと笑いかけるアリス。  だが、すぐにその横顔から笑いは消えた。  俺の言葉にただならぬ気配を悟ったのだろう。  女は慌てたようにベッドから身を起こすと、部屋の照明を点けた。 「何かあったのね? ま、まさか交通事故でも……?」 「そうじゃない。今朝のニュースで見たろう?『麻薬密売組織のボス、自宅で妻子と共に射殺される』……あの犯人が、俺さ」 「ウソよ! そんな……」  掻き上げたシーツで裸の胸元を隠し、アリスはしばし絶句した。  信じられないのも当然だろう。しかし事実は事実だ。 「あなた、ただのサラリーマンじゃない! 昨日まで、出張でニューヨークに行ってたんじゃないの?」 「すまない。今まで隠していたが……俺の本業は殺し屋さ。あの組織と対立する、別の組織お抱えのね。コードネームは『死神』……」 「冗談もほどほどにしてよね! あなたに人が殺せるはずないじゃない? いつも口癖みたいに『政府もさっさと銃を規制すべきだな。あんな物騒な物、持つ奴の気が知れない』ってぼやいてたくせに!」 「……」 俺はベッドの傍らに置かれたブリーフケースに手を伸ばし、二重底になった隠しポケットから取り出した銀色の小型拳銃を彼女に手渡した。 「――きゃっ!?」 「安心しろ。セーフティはかけてある」  ブローニングM1910。  9mm弾7発を装弾し、秘匿性にも優れたコンパクトな銃身。  1914年にはサラエボでオーストリア皇太子の命を奪って第1次世界大戦を巻き起こした、まさに暗殺者のための拳銃。  大の男なら掌にすっぽり収まってしまいそうなこの銃で、俺は今まで何人の命を奪ってきただろうか?
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