小説で死んだ男

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 私は死んでしまった。無理もない。あんなに大型トラックに轢かれたのだ。そりゃあ死んで当然だ。死なない方が不自然だ。とにかく死んだ。私は死んだ。  それにしても死んでもこんなに喋れるものなのか。よく漫画やアニメではそういう霊界探偵なんかがいたが、実際死んでみると全く同じようではないか。  ん、視界が明るくなっていくな。ここは空か?  そうそう、この感じだ。死んだらだいたい飛べるんだ。それで眼前に自分の死体が転がっているんだ。どれどれ、むむ、あれか。ただでさえいたたまれない容姿がさらに見るに堪えないじゃないか。醜さが迷宮入りだな。ん、死体の写真撮ってるやつがいるな。なんかやめて欲しいぞ。呪いたくなる気持ちもわかるなあ。運転手が落ち込んでるぞ。大丈夫、そんなやつは生きててもたいしたことはないんだから。そんなに気を落とさないで。みんなも本当に、泣かれたほうが申し訳ないから。でも、悲しませるんだろうなあ。両親も一応親友もいたし、会社の同僚もいるし。 「もう一度、人生をやり直したいか」という声がどこからともなく聞こえた。 「嫌だ」と答えた。  そういえば、私は幽霊になったのだ。昔から透明人間になったら何しようとか考えてきた私だ、健全な男子だ。普段触れることのない異性の生活を覗き見てやろうか。確か近所に女子高があったな。どれどれ、あそこだ。是非覗いてやろう。ん、なんだ。女子高が何かに覆われて見えないぞ。そうか、同士達か。先祖から考えることは同じだなあ。それにしても、高校はあんなに視姦されてるのか。絶対見守ってるんじゃないよな。  すごい競争率だから、覗けそうにない。残念だ。  私にも好きな女性がいた。ブサイクだって人を好きになるのだ。死んだのにいったい誰に弁解してるんだ、とは思いつつ、薄々死んだ後にこれだけ意見や意志を述べられるのだから私は小説で死んだ設定の登場人物だと気付きながらも、その利を活かして、好きにやりたい。  私の好きな女性は私の住んでいた同じアパート『けしかけ』に住んでいる。なので帰宅して早速覗いてみた。「はぅ…」「あ…」とか知らない男と近所に聞こえないように小さく喘いでいる。まだ午後二時である。お盛んだなと興奮しつつ、小説の利を活かして、男に乗り移った。
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