第2章

2/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 微かに響いてくる電車の音で、ふと我に返った。  とうに日が落ち、窓の外はすっかり暗くなっている。絵の制作に熱中する余り、今日は部活の終了時刻を一時間以上も超過していたのだ。当然、他の部員は引き上げてしまっている。  希を一人で帰すのは不味いと思い、僕は慌てて自分の荷物を鞄に詰め込んだ。  こんな田舎町でも近頃は物騒だ。特にここ一年くらいの間、僕らと同じ年頃の若者が行方不明になる事件が立て続けに起こっている。  集団家出か、それとも変質者の仕業か――警察の方でも、未だに真相は判っていないようだった。  希は美術部員でもないのに、こんな遅い時間まで文句一ついわずにつき合ってくれたのだ。たとえ迷惑な顔をされようと、とにかく家の近くまでは送っていこう――そう心に決め、僕は自転車を停めてある校舎裏の駐輪場へと急いだ。  学校の近くには私鉄のローカル線が走り、その線路沿いに延びる道路が駅までの最短コースなのだが、それでも徒歩で十分ばかりかかる。  田舎らしく右側に線路の土手、左側には畑や田んぼが一面に広がり、コンビニの一軒さえない狭い道は車もめったに通らない。  朝夕は登下校の生徒で溢れかえるこの通学路も、夜の七時を過ぎれば急に人気がなくなりひっそり静まりかえる。特に日没が早いこの季節、真っ暗な道を独りで帰るのは、男の僕だってちょっと怖いくらいだ。  幸い希は徒歩なので、すぐに追いつくことができた。  青白い街灯の明りの下に、ショルダーバッグを提げた小柄な背中がぼんやりと浮かんでいる。  やや俯き加減で足早に歩いていた希は、僕が自転車のベルを鳴らすと立ち止まり、少し驚いたように振り返った。 「……浩(ひろし)くん? どうしたの、そんなに慌てて」 「いやあの――ほら、この道って夜は寂しいだろ? 一人で帰すのも何だと思って」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!