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「でも、やっぱり違う……あれは、あたしじゃない」
(……!?)
「浩くんって、将来はやっぱり画家さんになるの?」
慌てて聞き返そうとした僕をあしらうように、彼女は唐突に話題を変えてきた。
「え? いや、そんな……画家だなんて。そりゃ、将来はイラストかデザイン関係で食っていければいいな、とは思うけどさ」
「いいなあ。油絵って面白そう……ホントはちょっと興味あったんだ、あたしも。一度描いてみたかったなあ」
「描けばいいじゃないか。よければ、美術部に来いよ」
「でも、今さら入部したって……」
「遅かないって! 僕でよければ、一から教えてあげるよ」
「ありがと。でも、やっぱりいいや……たぶん、もう時間がないから」
その時の僕には、希の言葉の本当の意味が判っていなかった。
高二の二学期といえば、そろそろ将来の進路を考えなければならない時期だ。
彼女もまた、受験に備えて勉強に専念するつもりなのだろう――と、その程度に受け止めていた。
「でもさ、せっかく興味持ったんだろ? これで終わらせたらもったいないよ。ほら『明日世界が滅びようとも、我々は今日種を播く』って外国の格言にもあるじゃん」
「あははー。オーバーだよ、世界だなんて」
希はぷっと吹き出したが、僕の誘いにまんざらでもなかったらしい。
「……でも好きだな、そういう考え方。どうしよう……ちょっとだけ、教えてもらおっかな?」
彼女がだいぶ傾いてきたので、僕はここぞとばかり力を入れて勧誘した。
モデルとしての希の役目は絵が完成してしまえば終わりだが、彼女が美術部に入ってくれればこれからもずっと一緒にいられる――いささか動機は不純だが、異性に対してこうまで積極的に話ができるのが自分でも意外だった。
その時だった。希が「しっ!」と片手を上げて僕の言葉を遮ったのは。
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