再出発

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「本当に殺されるのかと思った。」 「うん。」 「本当に...怖かった。」 「うん。」 病院の屋上、同じように頭に包帯を巻いた2人。 真冬の冷たい風が2人を刺してくる。 スミンは気持ちの入っていない返事を繰り返した。 ジェミンはスミンの体を抱き寄せた。 「本当に殺したかった。」 「そうか。」 「素直になれた瞬間に捨てられちゃうんだって。すごく寂しかった。」 ジェミンが“ごめん”と、スミンの頭に口付ける。 「頭では理解しようとしたんだ。俺は男で、彼女は女。」 屋上から見えるソウルの街が、スミンの不安を増長させる。 巨大な都市に呑み込まれる自分の存在が、ジェミンからも見えなくなってしまうんじゃないかと。 「また....捨てられたんだって...。」 “また” ジェミンは、自分のしてしまった本当の意味を知り、スミンを抱く手に力が入った。 「スミナ。俺は本当にヒドいことをしてしまったんだね。」 「でも、俺が男だからいけなかったんだって気付いたよ。」 「違う!それは違うよ。だったら、俺が男であることもいけないこと?」「ううん。男でいてほしいよ。」 「俺も、スミナには男でいてほしい。そのまま、何も変わらないでいてほしい。」 「年とるけどね。」 少年のような純粋な瞳がジェミンを見上げる。 その瞳がジェミンの唇を見つめ、眩しそうに細くなる。 「退院したら、スミナの故郷に行ってみたい。」 ジェミンが空を見上げて呟いた。 「そんなのない。」 スミンはコンクリートの地面を見つめた。 「あるだろ?スミナが育った家が。」 「俺の家じゃない。」 「スミナを育ててくれた人たちに会いたい。」 「親じゃない。」 「親じゃなくても、スミナのこと、俺より知ってる。」 「これからいっぱい知っていけばいい。」 「スミナがどんな景色を見て、どんな風に考えて、どんな風に成長したか、この目で見たい。」 ジェミンはスミンの顎に手をかけて、自分の方に顔を向けさせた。
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