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「うちの親、公務員なんだ」
「……は?」
夏。放課後。3-1の教室。
光は一週間ほど前に配られた白い紙をヒラヒラとさせながら言った。
「だから俺にも公務員になれってうるせぇし」
「あぁ」
後ろの席に座っている渡邊光の持つ<進路希望調査>を見て、僕は成程な、と思った。
「光、何気に優等生だしな。似合うんじゃねぇの?」
「真面目か!」
光のツッコミに僕がくっくっくっと喉の奥で笑うと、はぁ、と似つかわしくない深い溜め息が一つこぼれた。
彼は渡邊光。僕と同じクラス。高三の受験生。現在彼女募集中。
「俺さ、世界が見たいんだよね。」
世界?
まずは目の前の現実を見てみろっつうの。
「それなら世界を夢見る公務員って書けよ。堅実且つユーモアも兼ね備えた、この時代にはピッタリな人材だな」
「…年明には分かんねぇよ」
僕はこの年明という名前が嫌いだ。「明るい年を迎えるようにって付けられたんだね」と、初めて付き合ったマリちゃんに言われた時には、思春期真っ只中の僕は恥ずかしくて泣きそうになった。勘弁してくれ。
年明けに生まれたがら年明って、どんだけユーモア欠けてんだ。いや、もう逆にそれがユーモアか。
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