それぞれの6月7日 夜10時

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~海堂夜摩の場合~  私が死んでいた。    享年14歳。世間一般的に言えば若すぎる死だ。    そんなことを当の本人である私が認識しているかって?    それは簡単、私の前に私の屍が転がっていたからだ。    仰向けに倒れる私の屍の背中には大きめのナイフが突き刺さっていて、そこから流れ出た紅く黒い液体が私の足元まで流れ出ている。    そう、私は殺されたのだ。    誰かは知らない。    いきなり、後ろからブスっとやられた。    通り魔かもしれないし、私に恨みを持った人の犯行かもしれない。    まあ、平々凡々な人生を歩んできた私に限って後者の可能性は無いと信じたいが、人間、どこで恨みを買っているかなんて分かったもんじゃない。    しかし、私が死んでからかれこれ二時間ほど経つが発見されない。    仕方ないので、私は他殺体を――私をずっと見ていた。    ああ!勘違いして欲しくは無いのだが、決して幽霊になった訳では無い。    幽霊は嫌いである。    その証拠としては、今も私も鼓動を打っている心臓が照明してくれる。    まあ、しかし、それは私の本来の体ではない。    そもそも、今の私は人間らしい二足歩行でなく、四足歩行だし、視線の端に見える腕もとい前足には黒くキレイな毛が生え揃っていて、掌にはぷにぷにした肉球があり、日本語は話せず「ニャー」と鳴くことしか出来無い。    今の私は猫であった。    それも、全身漆黒の毛並みの黒猫。    不吉だ。    自分の風貌は足元の血溜りで確認した。    傍から見たら、私は動揺してないように思われるかもしれないが、違う。    私がこの状態になってから、すなわち私が死んでから、もうニ時間ほど経っている。    その間で、私は人間は慣れる生き物だと、何かの本で読んだが、私は今、実感していた。    こんな常識の通じない状況にたったニ時間で順応するとは、恐るべし人間。
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