アリスの遺産と管理人

3/12
前へ
/528ページ
次へ
「では榊さん達に、アリス様からの遺言をお伝えします」 ソファーに並んで座っていた二人のうち、 優菜から見て右側の男性がおもむろに立ち、 鞄から書類を出して文面を広げた。 アリスは年明け早々亡くなったおばあちゃんの名前だ。 昔の日本の女性名としては、かなり珍しいだろう。 おばあちゃんはドイツ人の母親と日本人の父親から生まれた ーーハーフだった。 (おばあちゃん、遺言なんて残してたんだ……) たぶん、今書類を読んでいる男性は弁護士さんなんだろう。 隣に座っている男性はさしずめ助手か何かだろうか。 あまりじろじろ見ると失礼と思い、なるべく弁護士さんの紙に目をやるようにする。 だがどうしても視線が隣の助手の方へいってしまう。 なんでだろう……。 ちらっと見ると二人とも黒髪だが、助手の方は艶やかな髪だ。 そしてどこか日本人離れした 端正な顔立ちーー。 なんかちょっとオーラが違う。 危うく見とれそうになって、目をそらそうとすると 一瞬だけ、彼と目が合う。 ーー思わずその瞳に釘付けになる。 青い瞳。 真っ青な空のような色。 つい見とれてしまい、ハッと我にかえると 彼はそんな優菜の様子が面白かったのか、 周りに気づかれない程度に微かに笑った。 (あ、なんか今、バカにされた……?) 自分の容姿に、全く自信のない優菜は、 今の彼の笑い方にまるで蔑(サゲス)まれているように感じてしまう。
/528ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2620人が本棚に入れています
本棚に追加