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「では榊さん達に、アリス様からの遺言をお伝えします」
ソファーに並んで座っていた二人のうち、
優菜から見て右側の男性がおもむろに立ち、
鞄から書類を出して文面を広げた。
アリスは年明け早々亡くなったおばあちゃんの名前だ。
昔の日本の女性名としては、かなり珍しいだろう。
おばあちゃんはドイツ人の母親と日本人の父親から生まれた
ーーハーフだった。
(おばあちゃん、遺言なんて残してたんだ……)
たぶん、今書類を読んでいる男性は弁護士さんなんだろう。
隣に座っている男性はさしずめ助手か何かだろうか。
あまりじろじろ見ると失礼と思い、なるべく弁護士さんの紙に目をやるようにする。
だがどうしても視線が隣の助手の方へいってしまう。
なんでだろう……。
ちらっと見ると二人とも黒髪だが、助手の方は艶やかな髪だ。
そしてどこか日本人離れした
端正な顔立ちーー。
なんかちょっとオーラが違う。
危うく見とれそうになって、目をそらそうとすると
一瞬だけ、彼と目が合う。
ーー思わずその瞳に釘付けになる。
青い瞳。
真っ青な空のような色。
つい見とれてしまい、ハッと我にかえると
彼はそんな優菜の様子が面白かったのか、
周りに気づかれない程度に微かに笑った。
(あ、なんか今、バカにされた……?)
自分の容姿に、全く自信のない優菜は、
今の彼の笑い方にまるで蔑(サゲス)まれているように感じてしまう。
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