アリスの遺産と管理人

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昨夜はとても疲れた…。 弁護士が読み上げた、 祖母の遺言が頭を駆け巡り、 夜は殆ど眠れなかった。 優菜は 欠伸をした後、 うーん、と 一つ伸びをして空を仰ぎ見る。 頭上には雲一つない青空。 自分の心とは裏腹な、 あまりの快晴ぶりが妙に腹立たしい。 「もぅ…、 せっかくの休みなのに、 何でこんな事しなきゃならないの」 今日は土曜。 学校は休み。 天文部も顧問が妊娠している為、無理は出来ず、とりあえず今日の活動はなかった。 「えーと、 ここかなあ」 弁護士さんに貰った地図を再び開く。 辺りをキョロキョロと見回しながら、 末広町にある祖母の洋館を目指して歩き続ける。 実際に洋館を見て、防犯対策用の物品や他に一人暮らしするのに必要な物を検討しなくちゃならない。 ほんとは弁護士さんも同行してくれる予定だったけど、 他の依頼主の用事が入ったみたいで、ドタキャンされてしまった。 でも管理会社の人が来るから大丈夫、って言ってたけどホントに大丈夫かな…。 出かける寸前かかってきた有沢弁護士からの電話を思い出す。 「すごく不安だけど、管理会社って言う位だし、 とにかくちゃんと 見てもらおう」 次第に遠くから鉄柵で囲まれた、赤茶色の洋館が見えてきた。 おそらくレンガが使用されているのだろう。 日本の家にはない、独特のあたたかさが感じられる。 ふと優菜は足を止めた。 鉄柵の隙間から大きな庭が垣間見える。 だが人の気配は感じられない。 管理会社の人 まだ来てないのかな…? 不思議と錠は外れており、優菜は戸惑いつつも そろそろと中へ入った。 するとすぐに優菜の緊張は解け、感嘆の声が上がる。 「わあ~。すごい。 これ全部お花!? 手入れもちゃんとされてる」 花壇には色とりどりの花が咲いており、その脇に可愛らしい小さな丸テーブルとイスがちょこんと置いてある。 一軒家とは言え、優菜の家にはこじんまりとした家庭菜園くらいしかない。 ここまで広い庭は見た事がなかった。 やだ、可愛い。 私ここ気に入ったかも。 一体館内はどんな感じなんだろう。 優菜は興味をそそられ玄関へ向かう。 だがそこには昨夜、家に来た、 助手である黒髪の青年が佇んでいた。
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