アリスの遺産と管理人

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男性は玄関アーチを見上げ、洋館全体を眺めているようだった。 どうしよう…。 何か声かけづらい。 ただこうして居るだけなのに 何か目に見えないバリアがありそうな、 そんな感じさえする。 誰も寄せ付けない雰囲気を 彼は纏っていた。 言葉をかけあぐねていると、 向こうがふと こちらに気づいた。 「ああ、いらしてたんですね。 昨夜は遅くまですみませんでした。 榊さんも驚いたでしょう?」 昨日聞く事のなかった 低い艶やかな声が 優菜の耳を掠め、 心臓がドクンと鳴った。 戸惑いながらも、 どうにか唇を動かす。 「あ…、こんにちは。 昨夜はどうも…」 なんだろう、これ。 初対面だから緊張してるのかな。 わけのわからない動揺を 隠すように、 優菜は慌ててペコリと頭を下げ、心を落ち着ける。 「遅かったから、 道に迷ってるのかと 心配してたんですよ。 この辺は入り組んでいるから」 空色の瞳が優菜に笑いかけてくる。 あ…やっぱり、見間違いなんかじゃない。 この瞳の色、 絶対日本人じゃない。 昨夜、目が合った時ちゃんと見たもの。 でも、 今耳に届いたのはきちんとした日本語だった。 私の思い違い…? どうみても日本人離れした容姿だから外国人かと思ったのに。 だがそれを目の前にいる彼に直接聞くのは、失礼かとも思い、優菜は別の質問を切り出す。 「そうだ…あの、弁護士さん今日来れないって言ってませんでした? もしかして、助手さんだけ行くように頼まれたんですか?」 「…!? 助手、…ですか。 プッ、俺が、あいつの…?」 「え…違うんですか?」 不思議そうに首を傾げる優菜に男性はさも可笑しそうに笑う。 「…失礼。私はこういう者です。 昨夜は弁護士、有沢に無理を言って頼み、 同席させてもらったんです。 勿論、御両親の了承を得た上でですよ」 言いながら、名刺を差し出してきた。 『 丸伝(マルデン) 総合セキュリティー株式会社 相談役 レオンハルト・マクシミリアン・クルーガー 』 ーーと、記載されている。
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