アリスの遺産と管理人

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その声のした方を見上げると、 レオが気遣わし気に優菜の顔を覗き込んでいる。 あとわずかでお互いの鼻先が 触れそうな程の距離。 「ち、近い…! 近すぎ! 離れて下さい!!」 「…?」 キョトンとしたままの彼。 とっさにその胸を押しやった。 「…榊さん?」 「………」 どうしよう。 心臓がバクバクいってる……。 「……すいません。榊さん、俺何か変なことしました?」 「あ…、違うんです!。 レオさんの顔があまりに綺麗すぎてビックリしちゃってっ…」 激しく両手を振って 謝罪するが、 あまりにも過剰な反応すぎて自分でも呆れてくる。 「…そんなに美形ですか? 俺」 「はい、とっても!レオさんみたいに綺麗で美人なヒト、 私今まで見たことないですよ」 『美人』という言葉に反応したのか、ピクッとレオの眉が引きつる。 優菜は話す事に夢中で彼の様子に全く気づかない。 「失礼ですが、 あまりそういう事を男に言うのはどうかと思います。 まるで、女性に言ってるようでいい気持ちがしない」 怒りを押し殺したような声音が耳に届く。 きっと彼自身、 昔から気にしている事なのかも知れなかった。 ふとそう気づき、 ハッと顔を上げると優菜は謝った。 「すいません。私、レオさんがそんな気にしてると思ってなくて…。 そうですよね、男の人なのに、私ったらとても失礼な言い方でした」 優菜は真っ直ぐレオを見て、 頭を下げる。 「…………」 優菜のハッキリした物言いと態度に、一瞬レオは呆気に取られたような顔をした。 瞳を合わせたまま、 優菜の腹の中を探るような視線を送るとゆっくりと口を開く。 「俺の事はレオでいいです。 『さん』付けは、いりません」 「え…?でも」 「いいんです。 それより、あなたの部屋に案内しましょう。さあ、こちらへ」 言うが否や彼は再び歩き出す。 え…何? この流れで呼び捨てでいいって…、何で? 少なくとも自分は今彼を苛立たせた筈だ。相手の考えている事が全く読めない。 混乱した頭で優菜は彼を追いかける。 するとレオはある扉の前で立ち止まった。 「ここはアリス様が昔使っていた部屋です。 北側で日が当たりづらいですが…」 「……北側?」 ドアを開けると暫く使っていない古びた香りがツン、と漂う。 部屋の中には机やベッド、タンス等がしつらえてあった。 「北側かあ。 レオ、私ここの部屋に決めた 」
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