~プロローグ~

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 年齢は二十後半~三十前半といったところだろう。  しかしながら、それなりの、あたかもベテランかのような威厳を感じる。  なんとも面白味のない教師。期待はずれも良いところだ。まだへたくそな、新米教師の方が興味深いものが、思うところがあっただろうに。  なんて僅かな間だが、そんな事を考えしまった。そう、それはいとも簡単に覆えされるような浅はかな考えだった。 「すまない、訳あって遅れた。急いで体育館に向かうぞ」  自分のミスに対して深々と頭を下げると、すぐさま生徒を誘導して廊下に並ばせる。  移動がてら教卓に置かれたプリントを覗き、列の中に入ると、先までの自分が恥ずかしくなり髪をかきむしった。  それと同時に損な性格をしたこの担任を思い、自然とため息がこぼれる。  この人が担任って言うのもまんざらじゃないかも知れない。意外と良いことがあるかも。  窓の外では窓をきしませるような風は止み、穏やかな空がこの町を包み込んでいた。  そんな世界を舞う一片の花びらは儚くも美しく、新たな何かの芽生えを象徴していた。  誰一人いない、静まり返った教室。そこに残されたプリントの束。  付箋には他クラスの名前と生徒の人数が記されており、また、そのプリントは達筆とはほど遠い、不器用な男の字で埋め尽くされていたのだった。
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