僕らの夏

おばあちゃん

──話し声が、聞こえる。
頭が痛い。ずきずきと、そう、それはまるで、おばあちゃんが死んでしまったときに負った心の傷のような痛み。
そこまで考えて、僕はふと疑問に思う。
何故、こんなことを考えられる？
僕は、死んだ筈なのに。
怖いけれど、目を開けてみる。

「あ…れ…？」

固く閉じていた目をうっすらと開けると、もう見ることはないと思っていた人の姿。それも、たくさん。

「ぼ、僕は…死んだんじゃ…」

起き上がり、自分の身体を見渡しても、外傷と見られるものはどこにもない。それだけでも不思議なのに、僕を更に混乱させることがあった。

「ここは…どこだ？なんで誰も、僕を見ないんだ？」

いま座り込んでいる場所を、僕は知らない。
あのビルから飛び降りたとしても、こんなところには落ちないだろう。そしてなにより、車がないのだ。周りにいるのは、たくさんの人。そして、その人達は、普通ならば注目されるような座り込んでいる僕に誰一人目を向けないのである。

「変…だ…」

ここはどこだ？
僕は死んだのか？
だから誰にも見えていない？
じゃあここはどこなんだ？

次々と頭の中に疑問が浮かび、僕は少しパニックになる。

「ねぇ、大丈夫？」

突然後ろから声をかけられ、僕はびくりと振り向いた。

「え…君は…」

そこには一人の少女が立っていた。歳は、僕と同じくらいだろうか。

「私の名前は綾子。また、新しい子が来たのね。しかも、長くなさそうな」

彼女の言っている意味が分からない。

「君には僕が見えるの？」

「私には見える？なにを言ってるの？あなたは誰にでも見えるわよ？」