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──僕の大好きな
おばあちゃんが死んだ。
死因は、末期のがんだった。一年前から辛い闘病生活を送っていたけど、それは呆気なく幕を閉じ、僕に生きる気力を奪わせた。
『…強く、生きてね』
それがおばあちゃんの最後の言葉。泣きそうになりながら、最後の力を振り絞って伝えた遺言。だけど、ごめん、おばあちゃん。
僕、おばあちゃんの言葉の通りにはなれない。いま下を見渡せば、吐き気がするほどたくさん車が走っている。急ぎ足ですれ違う人々。暗い路地に足を抱えてうずくまるおじいさん。
全てが、僕を無気力にさせるんだ。
「さようなら」
その言葉は、誰に言ったんだろうか。
死ぬ間際まで靴を揃えるなどというめんどうなことはしたくなくて、僕は赤いスニーカーを人がいないところへと投げ捨てた。スニーカーはまるで飲み込まれるかのように下へ下へと落ちていき、地面へと叩きつけられた。
僕も、ああなるんだ。
恐怖はない。未練もない。あるのは、切なさだけ。
「…おばあちゃん、いま行くね」
足を踏み出し、もう二度と感じることはないであろう地面を蹴る。一瞬、身体が浮いたかと思うと、なんともいえない快感が身体中に響き渡る。
「ああ、だから──」
やめられないんだ。
そう言う前に、僕の意識は消えた。何故か最後、心の中に浮かんだのは、一人の見知らぬ少女だった───。
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