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いつものように優しい母親。
目を見ることができなかった。
一人で家に帰って、父親に告げた。
父親の前で泣くのは、これが2回目だった。
1ヶ月ほどたった日、母親がかすれた、それでも優しい声で言った。
「もう…もう助からないんでしょ?分かっているのよ」
俺は黙ってしまった。
母親はいつものように優しい声で「どう?仕事は見つかりそう?」話題を変えた。
俺は我慢しきれずに泣いてしまった。
母親はずっと俺の手をさすっていた。
数少ない親戚が久しぶりに集まった。
「あの人は本当に良い人で……」
「惜しい人を……」
どこかで聞いた台詞で溢れていた。
俺は淡々と喪主を勤めた。
ここ数ヵ月、ずっと独りで、とても広く感じていた家。
その日からさらに広く感じた。
骨壺は思っていたよりも軽かった。
家に帰った俺は机の上においてあったノートを手にとった。
母親の病室の、枕の下から出てきたノートだ。
日記だった。
入院してから、1ヶ月くらいから、死ぬ2、3週間前までの。
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