怪物の狂声と人間の恐声

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「まあ、確かにそうだけど。他の支部は魔法技術が中心的で私みたいな魔法が使えないのは苦労するからね。……そう思ったらこの蒸し暑さに感謝したくなったわ」 戦闘服の襟を押さえて溜め息混じりに、どこか悟ったような言葉を言った鋼ヶ崎。 「あはは、そうだね。同感だよ」 鋼ヶ崎の不満を聞いていた、空城は微笑に似た苦笑を浮かべて彼女に同意する。 「やあ、空城君に鋼ヶ崎君。久しぶりだね、春以来かな? 今日は宜しく頼むよ」 二人の後ろから自分達を呼ぶ、柔らかで親しみのある男性独特の低い声が聞こえた。 二人はその聞き覚えのある声に振り返って、懐かしいように双眸を細めた。 「久しぶりです、吉良班長」 「二人共、もう俺は班長じゃなくて上等補佐官だよ。そんな物言いしたらミカル君に失礼だと思うな」 親しみから、つい言ってしまった二人の言葉をにこやかに訂正したその男の名は、吉良 真木人。階級は上等補佐官で、この施設内では三番目に指揮権を持つ。 笑み以外の表情が無いんじゃないのか、と疑うほど常に微笑みに近い笑みを浮かべている男で、温和で優しそうな印象だ。 容姿は輪郭の整った、笑みの似合う爽やかで温容そうな二枚目の顔で、襟足で揃えられた髪を中分けにしている。 縁の無い眼鏡を掛けていた。 年齢は三十代前半ほどだろうか。
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