怪物の狂声と人間の恐声

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キラーグレイと呼称される、狼の形態を持つ灰色のイリーガルはその時、遊び代わりに仕留めた兎を貪っていた。 大型犬種が魔力循環の影響を受けてイリーガル化した彼らは、他のイリーガルよりも知性に優れてており、五匹から十匹の群れを組んで行動する珍しい性質を持つ。 その群れの一番外で見張り役を務めている一体のキラーグレイが、低く唸って灰色の世界をぐるりと睨んだ。 ――なんだろう、さっきから微かに音が聞こえるぞ、獲物だろうか、敵だろうか。 見張り役のキラーグレイは鼻をひくつかせ、灰色の毛で覆われた耳をピクピクと動かせて音源の位置を探る。 ――少し前には地響きのような危険な音も聞こえたし、少し前には人間と馬を食べたばかりだというのに面倒臭い。 見張り役のキラーグレイは知性のある脳味噌でそんな様な事を思考して、兎をオヤツ代わりに解体している仲間に警戒を知らせるかどうか迷っていた。 そして聞こえたのは、不審に思っていた微かな音の数十倍は大きな音だった。 見張り役のキラーグレイはその音の正体が分からないまま、身体を叩く幾つもの衝撃を感じて、それに痛みを感じる前に意識を消失する。 見張り役が肉塊になったと同時、灰色の草原を幾つもの轟音と火線が駆け抜け、叫声と狂声が辺りに響いた。
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