朝霧に隠れた狂気の予感

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朝霧に濡れた灰色の花は魔力の摂取によって変異した、この地方特有の薬草だ。 この世界、【グレミクス=ネクシャン】には【魔力】と呼ばれる膨大な不可視のエネルギーが、循環している。 その膨大なエネルギーが動植物に影響を与える事は、珍しい事ではない。 「霧も濃くなってきたしよう。本当によぅ不気味だなあ……、怪物でもガサッと出てきちまいそうだよなぁ?」 「その時は、こいつで、ドンッだぜ」 レーミスは銃をふざけて構える。 「ははははは! 間違いねぇ、お前なら怪物だってぶっ殺せるせるよ」 ローレンスは振り返って、笑う。 その顔に幾つもの鋭い牙が突き刺さった。 「ひっ」 レーミスは目を見開いて、自分の同僚が狼のような怪物に貪られていく様子をただ見届ける事しか出来なかった。 突然馬車に飛び交ってきた数体の怪物は、馬をその鋭い爪で引き裂き、鋭牙で食いちぎり絶命させていく。 車体に飛び乗った一体の怪物は、ほんの数秒で首を失ったローレンスを店で売っているバラ肉のように解体するとレーミスに唸る。 「ひっ、ひ、ひ、く、く、来るなぁっ!」 ドンッと轟音が響く。 「が」 レーミスの首に、狼のような怪物の鋭い牙が食い込んでいた。 銃を撃った筈なのに、命中した筈なのにこの怪物は生きている。 なんで、なんでだ。 死にたくな――。 ぐしゃり、と音がして、レーミスはその二十三年の短い生涯を終わらされた。
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