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とあるカフェの扉を開いた。からんころん、と涼しい音がする。
このちょっと若者向けなおしゃれカフェ「Erina」。柔らかな木目と硬質なタイルをうまく融合したような感じの良い店内に、店長のいれるコーヒーと苺タルトが美味いと評判の店だ。今日もカップルでいちゃいちゃと店内の温度をあげる人や友達同士でかしましくケーキをつつく人、はたまた一人で黙々と読書する人など色々な人で賑わっている。
…と、長々説明してきたが、俺はこの店のコーヒーにも苺タルトにも用はない。俺がここにきたのは、アルバイトをするためだった。
裏の裏の裏の、アルバイトを。
「シローさーん。きましたよー。」
店の奥のドアを開けると、所謂応接間のような部屋が広がっている。革製のソファに木目の机。更に奥には食卓やらキッチンやら…。つまり、ここにはカフェの店長であるあいつが住んでいるのである。
「有永(ありなが)くーん!やっときたよ!ったく俺は暇で暇で…!」
「暇ならカフェの方手伝ったらどうですか。ちらっと見たら遥さん一人で回してましたよ。」
ちらりとソファでねっころがっているシローさんを横目で見ながら、机にしょっていた学生カバンを置く。
「だーからー!俺の本業はカフェの店長じゃないんだよ!」
「なにカフェのオリジナルTシャツ着ながら言ってんですか。てかしょうがないじゃないですか。あんなに繁盛してるカフェが裏ではなんでも屋なんて気付きませんよ。ていうかなんですか。カフェが裏でなんでも屋って。テンプレすぎて気持ち悪いです。それと」
「もういい!まじいい!俺が悪かった!ごめんって!」
シローさんが涙目になりながら叫ぶ。うるさいです。
そうである。何を隠そうこの天田シローさんは表でカフェを営みながら、裏ではなんでも屋を営業しているという実は痛い人なのである!ででーん。
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