彼と彼女の物語

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――それは食卓 「美味っ!何だこれは」 バルドは用意された鶏肉のトマトソース煮込みを頬張り驚愕していた。 「私はこう見えても料理はかなりできますですよ」 バルドの反応に満足をし、フフーンと胸を張る。してやったり顔だがバルドは気付いた様子もなく次を口に入れた。 「これが料理というものか」 フォークをくわえながら睨み付けるように皿を見る。 「……いや、待って下さい先輩。初めて料理に遭遇した未開人みたいな反応なんですが」 「糞親父は料理などできん。お袋は俺を生んで死んだ。俺はできるわけもない」 食材をそのまま食べる習慣が出来上がっているバルド。それが彼の当たり前で、他を知らない故の選択。 「……先輩」 そんなバルドを見ながら手で顔を覆うミルフィ。すでに涙声だ。 「いや、なんで泣いてんの?なあ、お前これから本当に料理作ってくれるのか?」 「はい!このミルフィ全身全霊で作らせていただきます!」 敬礼をしてなんだか燃えているミルフィ。やってやんよ的なオーラが全身からほとばしっている。それから何かに思い当たったのか、ほんのりと顔を赤く染めた。 「なんだか、その、こっ恋人みたいですかね?」 さらに赤くなりながらがらローブをギュッと握り、バルドを下から覗き込んだ。期待を含んだその瞳に彼は優しくこう宣った。 「いや、お袋じゃね?」 「…………」 「…………ん?」 しばし見つめ会う二人。 「ふしゃあああ!」 「なんでキレてんだよ!包丁は止めろ!」 ミルフィが羞恥に耐えきれず、お前を料理してやんよ的な包丁使いで迫り来る。 バルド御抱え調理人が誕生した瞬間だった。
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