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――それは日常。
ヒソヒソとバルドを見ながら囁くもの、明らかに嫌悪の表情を浮かべて避ける者、様々な者がいる。
鬱陶しい――バルドはいつもの光景にうんざりしつつ、足早に進み行く。
どいつもこいつもくだらない。面と向かっては何も言えないくせにと、内心悪態をつきながら黒い感情が貯まっていく。
そうこうしている内に目的地に辿り着いた。目の前にシートを庭に広げ、明らかにプリプリと怒っている少女。そんな姿を見ると、バルドの黒い感情がどこかに霧散した。
「先輩、遅いじゃないですか!」
「おう」
「おうじゃありませんよ!私はお腹ペコペコなんですからね」
怒っていても律儀にバルドを待って先に食べない辺りが彼女の長所だろう。そんないつもの光景。バルドは彼女の怒りを完全に無視し、ランチボックスから卵焼きを摘まむ。
「うん、美味い」
「相変わらずマイペースな。ふふん、しかし私の料理の虜のようですね」
フフフのフと得意気に口元を吊り上げた。
「私は一つだけ得意な魔法があるのです。聞きたいですか?聞きたいですよね?聞きたいですよね?」
いつもの事なので諦めて頷くバルド。どんどん近くなり、声も大きくなるという彼女の必殺技。
「料理に愛情という名の魔法をね」
人差し指を立てながら、完全に決まったぜと満足げなミルフィ。
「相変わらず恥ずかしいやつだな」
真顔で返すバルド。
「相変わらず失礼な!」
そんな彼女を見て彼は微笑む。それは本人も気付かないくらいに無意識に――彼は楽しそうに笑った。
だから彼女の闇に気付けなかった。
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