彼と彼女の物語

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--それはお誘い。 「おい、明日は授業はなしで二人で隣町に買い物に行くぞ?」 「みぎゃああああ!!」 まるで新妻よろしくに台所に向かい、髪を後ろでしばりフリフリのエプロンを着けた料理中のミルフィが、包丁で指を切った。血が出る指を頬張りながら、ミルフィは空を見上げる。 「ああ……神様。この動かざることゴーレムのごとし、かわすこと幽霊のごとし孤高の魔術師が私をデートに誘うなんて、何かの罠でしょうか……例え罠だとしても私は立ち向かってみせますっ。私の貞操に危機が迫ろうとも、この私の魅力がいけないのですから」 「死ね」 バチンと頭を平手で叩かれるミルフィ。しかし顔はニコニコだった。 「なんですかもぅ……バルちゃんったら実は積極的なんだからぁ。全く、仕方のない男です」 再び後頭部を叩くバルド。だが効いた様子もなくニコニコ顔のミルフィを見て、もう何を言っても無駄だと諦めた。 「ほら、見せろ」 バルドはミルフィの手を掴み、切った指に回復魔法をかけていく。回復魔法は嫌いじゃないとバルドはひとりごちる。 「お前は普段から頑張り過ぎだ。たまには休め」 「え……?」 ミルフィは休むことなく、ひたむきな努力でバルドの指導を受けてきている。異常なくらいで、バルドが止めても聞かない程にだ。倒れてもおかしくない程の練習量。 「行くのか行かないのか早く決めろ」 「そんなの……行くに決まってますよぅ……相変わらず不意打ち過ぎてズルいです……」 泣きそうな顔をするミルフィだが、頬をバチンと叩き笑顔になった。 「弁当!弁当を作ります!とびきりのラ、ラブ弁を!」 「いや、作らなくていい」 「嘘嘘嘘!絶対食べたいはずですっ。先輩が私の料理にメロメロなのは知ってるんですからねっ。今日のキノコと鶏肉のチーズリゾットはいらないんですか?いらないんですね?いらないと言うんですか?」 「ぐっ……たまには俺がお前に行きつけの店で美味しい物を食べさせてやろうと思ったんだが……じゃあ、止めるぞ。お前が作ってきてくれ」 「嘘嘘嘘!嘘です!やっぱり先輩の食事の誘いを受けさせて下さい!」 「どっちだよ」 そう言って、必死になりながら表情がコロコロ変わる彼女を見ながら彼は頬を緩めた。
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