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◇
石造りの広間の中央に二つの人影が生まれた。その二つを見守るかのように、囲むように離れた場所に多くの人影が存在した。
「炎よ!」
二つの人影の一つが手を前に突きだした。開いた手のひらの先に拳大の火球が生まれ、雪崩のようにもう一つの人影である、声の主の目の前にいる黒づくめのフードを被った男に飛び向かう。
「凍れ」
黒づくめのローブの男のその言葉と共に、辺りの空間が張り詰め、気温が一瞬で氷点下まで下がる。
炎を出した男の前に、あまりの急激な気温低下に白い冷気の煙りが発生――それを脳が認識する刹那、足元から天井に向かい冷風が吹き荒れた。
一瞬で通路の天井まで隙間無く覆う厚い氷壁が生まれ、二人が繋がる目の前の世界を遮断する。それは火球の消滅も意味した。
それは白銀の世界。壮大かつ華麗な魔法構成。幻想的とも思える氷の結晶が、見る者の目を奪う。呼吸する度白い吐息が漏れ出す。
一瞬見とれる男。だが、その肌を突き刺す程の冷気が現実を思い出させ、周りを氷の壁に囲まれているのに気付き闘志を失い項垂れた。
「バルドの勝利!」
二つの人影を見守っていた影たちが歓声をあげる。ざわめく広間。魔術学園での試しの儀が行われ、それは前代未聞の幕で閉じた。
それは圧倒的な力で教師を打ち負かした、バルドという少年の噂の始まり。
天才バルド――常人を遥かに超えるその魔力の高さと、人を威圧するかのような眼光。
そして――かつての母親殺しの罪により恐れられ、父親の命令には逆らえない呪印を瞳に施された彼の物語。
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