7人が本棚に入れています
本棚に追加
彼らの目の前にあるのは、中庭を挟んだ反対側の校舎の白いコンクリート壁。
廊下の電気は既に消され、アルミサッシの窓の奥は暗闇に覆われている。
そこに、白い人影の上半身が覗いていた。
人影が若い女性であることは、ひと目で判った。髪の長さが肩のあたりまであり、何より着ている服が女子高生と思しきセーラー服だ。
ただし、ここ浜風高校の女子制服はブレザーにチェック柄のプリーツスカートなので、この学校の生徒ではあり得ない。
「少女」は両手で顔を覆い、泣いているかのように俯いていた。
「な、何だよあいつ……どこの学校の生徒だ?」
「知らねーよ! そ、そんなことより……」
三人組の一人が、ガタガタ震えながらいった。
「中の電気が消えてんのに……何で、あの女だけはっきり見えてんだよ!?」
誰も答える必要はなかった。
闇の中に佇む少女は、身体全体がぼんやりと青白く輝いていたのだから。
「ウソだろぉ……?」
もはや不良も生徒会もない。四人の少年は互いにひしと抱き合い、腰が抜けたように座り込んだまま、淡い光を放つ「少女」を凝視している。
「……カエリタイ……」
すすり泣きと共に――消え入るような声が、どこからともなく聞こえた。
「カエリタイ……オウチニ、カエリタイヨウ……」
ふいに、少女が廊下を歩き始めた。
窓から窓へ、夢遊病者のようにふらつく足取りで移動していく。
やがて一番右端の窓に現れたとき、その姿は闇に溶けるように、ふっと消えた。
「た、助けてくれぇ――っ!!」
ようやく金縛り状態から脱した少年たちは、そろって中庭から逃げ出した。
最初のコメントを投稿しよう!