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「さぁさぁ、皆様お立ち会い――」
校庭の端の方、体育祭などの時に観客席として使用するコンクリート段の上に立ち、風間爽人(かざま・あきと)は景気良く声を張り上げた。
長身でやや痩せ形の体型。
鼻筋の通った面長の顔立ちは欧米人とのハーフのように整っているのだが、何となく二枚目半の印象を与えるのは、笑顔がそのまま地になったような愛嬌のある表情のせいだろう。
「ここに取り出しましたピンポン玉。種も仕掛けもございません!」
歌うように軽妙な口調でいうと、右手の親指と人差し指でつまんだプラスチック製の白い玉を、コンクリ段の下に集まった観客によく見えるように高々と掲げた。
もっともそこにいたのは、野球部のユニフォームに身を包んだ男子生徒が数名に過ぎなかったが。
「はいっ。一つが二つ、二つが三つ――」
団扇で扇ぐような仕草で両手をひらひらさせるたび、爽人の指の間で玉は一個増え、二個増え――最後には両手に八個の玉が出現した。
その手先は鮮やかで、軽快な話術も相まってプロはだしといってよい。
にもかかわらず――校庭に座り込み、ぼんやり見上げる野球部員たちの反応は鈍かった。
「おっと、これ以上は持てませんね~。これは困った」
といいつつ爽人が両手を振ると、今度は八つが七つ、七つが六つ――一つずつ玉が減り始め、たちまち元の一個になった。
再び一個になったピンポン玉を顔の前に持ってくると、爽人はそのままごっくん、とさもうまそうに飲み込んだ。
もちろん本当に食べたわけではない。食べたように見せかけて、巧みに掌に握り込んだのである。
「……つまらねーな」
野球部員の一人が、ぼそっといった。
「ピンポン玉が増えて、また減って……それで終わり? そんだけ? 何が不思議なん?」
「いや、これはこーゆーマジックだから……」
不満そうな観客たちを前に、演じていた当の爽人も困ったように頭をかいた。
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