第2章

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「それじゃ、今度はとっておきのカードマジックをご披露――」  爽人はしゃがみこみ、足下に置かれた段ボール箱の中をまさぐった。  だが、野球部員たちは次の演目を待たずに立ち上がり、 「さーて、そろそろ練習に戻るかぁ?」 「だよな。こんなとこでサボってるのがバレたら、監督にどやされるし」  口々に勝手なことをいいつつ、校庭の方へとぞろぞろ去って行く。  後には、トランプを持ったまましょんぼり立ち尽くす爽人だけが残された。 「はあ~、張り合いがない。真のエンターティナーへの道は遠いなぁ……」  がっかりしたように小道具を仕舞い、爽人はコンクリ段の上に腰を下ろした。 (GWも明けたってのに、未だに新入部員はゼロ。部室も予算も割り当ててもらえず……このままじゃ、本当に今年限りで店じまいかねぇ。我がマジ研は)  爽やかに晴れ渡る初夏の空を見上げ、憂いに満ちたため息など洩らしてみるが、笑顔が地になった顔が災いして今ひとつ深刻そうに見えない。 「あー、やってるやってる! 間に合ったぁ!」  どこか遠くで、女子生徒の弾んだ声が聞こえた。 「早く早く! もう始まってるみたいよー!」 (せめて女子部員でもいればなぁ……バニーガールのコスプレでもさせて、ステージに出せばコマーシャル効果抜群。めでたく入部希望者が殺到――なんてね)  そんな不純な妄想に耽りつつ、ふと爽人が足下を見やると――ちょうどコンクリ段の下にいた、一年生の女生徒と目が合った。 「うわっ!?」  驚いて後ずさる爽人を、女生徒はきょとんと不思議そうに見上げている。  背が低く丸っこい顔。  セミロングの髪をリボンで結って左右に振り分けた髪型は高校生にしてはいささかあどけないが、溌剌とした表情と好奇心に輝く瞳がいかにも新入生という感じだ。
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