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「いえ……それほどでは。子供の頃、ちょっと習っただけです」
色白の頬を赤らめ、碧が照れくさそうに俯いた。
今時の女子高生には珍しく、ずいぶんと奥ゆかしい性格らしい。
「センパーイ。碧ちゃんはねー、マジックのサラブレットなんですよぉ!」
「ん? どういうことかな?」
「燈ちゃん! その話は――」
「昔、TVで『深海回天のマジックショー』ってやってたじゃないですかぁ?」
慌てて止めようとした碧に構わず、燈がさも得意げに語り出した。
「彼女、あの深海回天の娘なんです! あたしたち、二人でプロのマジシャンになろうって誓い合ってるの♪」
(深海回天……やっぱりか)
爽人はため息をつき、四つ玉のタネを備品用の段ボール箱に放り込んだ。
「悪いけど、うちは新人の募集やってないから……他のクラブを当たってくれないかな?」
「えっ!? 何で、何でー!?」
事態の急変に、燈が戸惑い気味に声を上げた。
碧の方は驚く様子もなく、ただ少しだけ哀しそうな顔つきになった。
「あの、私が深海回天の娘だと……何か、差し障りがあるんでしょうか?」
「俺も将来はマジシャン志望だからさ、いちおうプロでメシ食ってる先輩たちはみんな尊敬してるけど――回天だけは別だね。マジシャンの恥だよ、あいつは」
それだけいうと、風間爽人は段ボール箱を抱え上げ、後も見ずに歩き出した。
「何よ、あの男!? サイテーっ!!」
背後から、燈のヒステリックな罵声が容赦なく浴びせられる。
爽人は軽く肩をすくめ、そのまま校舎の中に姿を消した。
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