第2章

6/6
前へ
/32ページ
次へ
「いえ……それほどでは。子供の頃、ちょっと習っただけです」  色白の頬を赤らめ、碧が照れくさそうに俯いた。  今時の女子高生には珍しく、ずいぶんと奥ゆかしい性格らしい。 「センパーイ。碧ちゃんはねー、マジックのサラブレットなんですよぉ!」 「ん? どういうことかな?」 「燈ちゃん! その話は――」 「昔、TVで『深海回天のマジックショー』ってやってたじゃないですかぁ?」  慌てて止めようとした碧に構わず、燈がさも得意げに語り出した。 「彼女、あの深海回天の娘なんです! あたしたち、二人でプロのマジシャンになろうって誓い合ってるの♪」 (深海回天……やっぱりか)  爽人はため息をつき、四つ玉のタネを備品用の段ボール箱に放り込んだ。 「悪いけど、うちは新人の募集やってないから……他のクラブを当たってくれないかな?」 「えっ!? 何で、何でー!?」  事態の急変に、燈が戸惑い気味に声を上げた。  碧の方は驚く様子もなく、ただ少しだけ哀しそうな顔つきになった。 「あの、私が深海回天の娘だと……何か、差し障りがあるんでしょうか?」 「俺も将来はマジシャン志望だからさ、いちおうプロでメシ食ってる先輩たちはみんな尊敬してるけど――回天だけは別だね。マジシャンの恥だよ、あいつは」  それだけいうと、風間爽人は段ボール箱を抱え上げ、後も見ずに歩き出した。 「何よ、あの男!? サイテーっ!!」  背後から、燈のヒステリックな罵声が容赦なく浴びせられる。  爽人は軽く肩をすくめ、そのまま校舎の中に姿を消した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加