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「俺、このおねぇさんと遊ぶことにしたから。じゃあね。バイバーイ」
「な───…」
な、なんだ、コイツ!
小林大地の隣にいた女は、呆けたあたしを見て、クスッと笑った。
あたしは……、その場において、どう見てもフラれた負け犬だ。
でも、理由はそれじゃない。
あたしが、瞬時に彼の腕をつかんだ理由。
さっきまであたしを誘っていた彼が、一瞬にして別の女性と腕を組み始める。
歩き出す。
しかも相手は、妖艶な女。
不純異性交遊に走るのは明らかだ。
教員として、それを見過ごすわけにはいかない。
いかないのに……。
もはや彼を引き留める気力がなかった。
ふぅ、と深いため息をつき顔をあげると、すでに彼の姿はなかった。
ゆっくりと辺りを見渡したが、やはりもういない。
再びため息をが溢れた。
どうやら、
一筋縄ではいかないらしい。
しかし一体、彼の心を探るにはどうしたらいいのだ。
帰路につきながら、あたしはずっと小林大地のことを考えていた。
『教員』も『生徒』も、彼には通用しない。
掟やマニュアルはそこにない。
「………………」
あたしはどうすればいいのだろう。
結婚式場から逃げ出し、俊輔に疑惑を持たれたことなど、すでに頭から抜けていた。
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