‡1.始まりの悲劇‡

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「……テレシア」  呟く声は虚ろに零れ落ち、イシュタルの更なる涙を誘う。  父の深い愛情を知る分、その悲しみは大きい。 「お母様…どうして…」  冷たくなった母を目の当たりに、両手で顔を覆ったまま泣き崩れしまう。  理不尽に命を奪われた母。  涙はとめどなく溢れては、ドレスを濡らしてゆく。 「姉上」  シーヴァスはそんなイシュタルの傍に寄り、膝を付く。 「シヴァ…」  自分を気遣ってくれるシーヴァスの顔を泣き濡れた瞳で見詰めると、シーヴァスはイシュタルを胸に抱き寄せた。 「可哀相に…」  イシュタルの涙を優しく拭う彼の言葉は不可思議だが、その時は気にならなかった。  何かが崩れていく音が大きさ過ぎて―――。  一人一人の心さえもどこかに奪い去った凶行に、ただただ憎しみが渦巻いていた。  あんなにも温かで優しく心で満たされていたというのに…。  今はこの屋敷一杯に負の感情が満ちていた。
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