狼犬と白うさぎ

2/9
前へ
/12ページ
次へ
晴天。 顔にあたる風と、降り注ぐ日光が心地いい。 時間は、昼下がり。 お昼寝にはもってこいの、時間帯と天気。 場所は、のどかな森のなか。 生い茂る緑と、美しい鳥のさえずり。 風が舞い上がらせた木の葉の緑が、青空に映える。 訪れた者なら、誰でも感嘆の声をもらすであろう、そんな場所。 その場所を。 「だああああああああああああああああっ!!!!」 1人の青年が、雄叫びをあげながら、疾走していた。 年のころなら18、19。 短く切られた黒髪。 引き締まった細い体。 健康的な美青年ではあるのだが、やたらつりあがった瞳が彼の人相を悪くしてしまう。 しかも。 「ちくしょうなんで俺がこんな目に合わなきゃなんねぇんだよ!? あの野郎絶対シメる!!」 と、さっきから叫んでいる内容が、そもそもガラが悪かったりする。 とにかく。 彼は全力で森のなかを駆け抜けていた。 「ああああああもうやってらんねええええええっ!!!!」 叫びながら、軽々と横たわる大木を飛び越える。 彼が走っているのは、道なき道である。 つまりは、木々が生い茂った中を全力疾走しているのだが… まるで木のほうが避けていくように、青年は簡単に間を走り抜けていた。 「くっそ、あいつ、まだ追ってきてんのかよ!?」 スピードを落とさないまま、背後を見る。 彼の背後… 肉眼でやっと見えるかの位置に。 ソレはいた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加