8169人が本棚に入れています
本棚に追加
/490ページ
そもそも、なぜ人間という生き物は同じ種族である人間を殺すのだろうか。
憎いから。気に食わないから。己の邪魔をしたから。恨んでいたから。
これらは所詮上辺だけの言い訳にしかない。
憎いから――なら憎くなければ殺してはいけないのか。
気に食わないから――なら気にいったら殺さないのか。
己の邪魔をしたから――ならもし己が邪魔をしていたら、そいつに殺されてもいいのか。
恨んでいたから――勝手に恨んだのは己だろ。なぜわざわざ殺さなければならないのか。
所詮、人が人を殺すのに理由はいらないのだろう。仮にあったところで、“人間を殺した”という結論は変わらない。
理由はどうあれ、結局殺した事実に行き着くのなら、理由なんてつける意味が無いと思う。
だが人はその理由をつけようとする。なぜ?
私にはわからない、わからない、わからない――。
私は理由なんてつけないから。私に理由なんて無いから。
私は人の気持ちを、理解出来なかったから。
あの人が、あの最低が、私の前に現れる前までは、理解出来なかった。
あの人は本当に、前触れもなく私の前に現れた。
血にまみれた身体で、ただ悠然で、忽然で、そして毅然に、彼は私と相対した。
恐かった。逃げたかった。死にたくなかった。生きたかった。
彼は鎖に繋がれていた私に、生きているのに死んでいた私に、たった一言、こう言った。
――お前、人間らしいな――。
それが私と《最低》との初めての出会い。
偶然だけど必然でもある、確かに存在していた出会い。
私はどうやら人間だったみたいだ。
今まで死んでいた私は、また生きることを始めようと思った。
人間が人間を殺す理由はわからない。
けど、もしかしたら、これはわからないままで良いのかもしれない。
私はただ、貴方の為にありとあらゆるモノを始末するだけ。
私は貴方が死ぬまで、決して死なないことを誓いましょう――この血眄絢の、名の下に。
最初のコメントを投稿しよう!