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「……。そうか、ありがとな」
青年は礼を言った後、狐の頭を優しく撫でた。
狐は青年を警戒するどころか、むしろ頭を撫でられる度に尻尾を激しく振る。
「気持ち、良いのか?」
青年が訊くと、それに答える様に尻尾を振る狐。
「……。そうか」
青年は気持ち良さそうに目を細めている狐を見て、微かに笑みをこぼす。
「マスター、終わりましたか?」
すると唐突に、茂みの奥から声が聞こえてきた。
その声に、青年は一言「ああ」と答える。そして狐から手を離し、声がした方を向く。
そこにはユラユラと宙に浮く、一匹の白い蛇の様な生き物がいた。
「それで、お前は今まで何をしていたんだ。氷劉」
「私ですか? 私はこの辺りの見回りと……湖を見つけたので、少し水浴びをしていました」
氷劉(ひりゅう)と呼ばれた蛇は、青年の問いかけに答える。
「そうか」
「それでマスター、これからどうしますか?」
ゆっくりと青年に近寄っていく氷劉──。すると、今まで居た動物たちが、一斉に大木から離れ、逃げる様にこの場を去って行った。
「あ……」
「……。お前、相変わらず動物には好かれないな」
「……あの姿なら、そうでもないんですけどね」
氷劉は暗い雰囲気を曝しだしながら青年に近寄り、マフラーのように首に巻き付く。
「それでマスター、訊くのは二回目ですが、これからどうしますか?」
「…………」
青年は、首に巻き付いている氷劉の身体を撫でながら考える。
「久々に、故郷に帰ってみようと思う」
「──マスターの故郷ですか。懐かしいですね」
「そうだな……。それじゃあ、行くか。氷劉、お前は内に入れ。転移でいく」
彼はそう言った後、地面に直径1メートル程の魔法陣を、近くに落ちていた木の棒で刻んでいく。
「わざわざ陣を使う必要はあるのですか?」
「気分」
「ああ、そうですか。なら私は内に入りますね」
氷劉はそう言うと、十センチくらいの青白く光る球体のような形になり、青年の周りを数回グルグルと回った後、彼の胸元に吸い込まれるようにして消えていった。
(マスター、どうぞ)
「……。『転移』」
青年が魔法陣の上でそう唱えると、彼は一瞬にして姿を消した。
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