十一章

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「まったく。こんな場所に居たんですか……しかしまあ、中々面白い状況で」 「…………氷劉、さん?」 薄く青みがかった髪。終夜と同じオッドアイ。 この図書室という空間に突如として現れたのは、終夜の心獣であり、今まで姿を見せていなかった氷劉だった。 彼女の足元には魔法陣が輝いている。それはつい先程、終夜が使用しようとした転移と同じ魔法陣。 秋巴は隣にいる氷劉を、どこか訝しげな眼差しで見つめる。 「久しぶりですね。秋巴。元気にしていましたか?」 「──まあ、一応は。貴女の方は、今までどちらに?」 「………………。ああ、その、少しばかり、雑用を」 歯切れの悪い台詞。 氷劉は秋巴から気まずそうに目逸らし、自分の頬をぽりぽりと掻く。 「今はそのようなことはどうでもいいんです。取り敢えず、この本が空を舞うという摩訶不思議な光景について、説明してもらえますか」 「えっと……私にもいまいち判らないんですけど。恐らくこれには、始夜さんが関係しているんじゃないかと」 「始夜──。そうですか。その名前は、当分は聞きたくなかったんですけど……仕方ない。 それで、他には?」 秋巴は首を傾げる氷劉に、今まで終夜と共に思案していた内容を、簡潔にかつ早口で伝えた。 そしてそれらを聞き終わると、氷劉は傍から見ても、明らかにわかるくらい、面倒臭そうに溜め息をつく。 「いつもながら、マスターの不運っぷりには呆れを通り越して感服してしまいそうになりますね──。 話をまとめると、誰かが外側から攻撃すれば、あの本の壁を壊せると。しかし唯一の手段である転移を使えたマスターが倒れ、そこに私が現れた……こんな感じですか。 ……。普通に建物の一部を壊せば、外に出られたのでは?」 「──あ」 「…………」 「………………すみません」  
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