十一章

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「…………!」 沈黙している秋巴と、その一つ眼の化け物の目が合った。 「…………」 「──げら、げらげら、げらげらげらげら。えへ、えへえへ、えへえへえへえへ」 気味の悪い笑い声。その声が、図書室に響き渡る。 「うぅ──」 心底嫌そうに顔を歪める秋巴。顔は青白くなり、全身には鳥肌が立ち、嫌悪感、不快感を覚える。 「気持ちの悪い、本ですね。これも始夜さんの仕業なんでしょうか──って、な、ちょっ、なんでこっちに来るんですか!」 本の化け物は焦る秋巴に向かって、青い舌をぐにゃぐにゃと動かしながら、表紙を少し傾けた姿勢で飛んでいく。 「いや──来るなっ」 終夜と氷劉をその場に残したまま、秋巴は化け物に背を向け全力で逃げ出す。 それを「げらげらげらげら」と笑いながら追いかける化け物。傍から見たらただ愉快そうに笑っているだけだが、秋巴から見たらさぞかし悪魔にでも見えるのだろう。 目尻に涙が溜まっていた。 「うぅ──いや──お化けいやあ」 既にこぼれていた。 そんな彼女を見てさらに可笑しく見えたのか、化け物は先程よりも大きな声で笑い声をあげる。 「……いい加減にっ」 振り向き、鎌を構えた秋巴。 だがすぐにまた逃げ出す。裏の名は、案外ふがいなかった。  
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