十一章

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何故か執拗に秋巴ばかりを追いかけ回す化け物。 図書室を一周する際に慎治とすれ違ったが、彼には脇目もふらず──本に脇はないが、ほんの一瞬も見向きもしなかった。 「なんで私ばかり──。!」 走る秋巴だが、突然彼女の前方に、入口を守っていた本の壁が上から降ってきた。 それに驚きながらも、彼女は走る方向を変えようとする──だがまたその先に、今度は違う壁が降ってくる。 高さは約八メートル。それがまるで道を作るように、秋巴をどこかへ誘導するかのように、壁は次々と降ってくる。 「───」 その壁に誘導されるがまま走ると、行き着いた先は見た目は普通の壁だった。 「──邪魔だ!」 壁を破壊しようと、鎌を思い切り振り落とす。 途端、彼女の鎌は本の壁に向かって凪いだ時と同様に、何か見えないものに──障壁に弾き返された。 呆然と、弾かれた自分の鎌を見つめる。 「……げらげら、げらげらげらげら」 「あ……う」 振り向くと、そこにはいやらしい笑みを浮かべた化け物。 にやにやとしたその気味の悪い笑みを身近で見、秋巴は言葉を失う。 「や……来る、な……」 彼女の悲痛にも似たその言葉は、あまりにも小さく、かすれていた。 化け物は「えへ! えへえへ!」と、一段と大きな声で笑うと、その垂れたままの青く長い舌を秋巴に伸ばす。 そして、ゆっくりと、彼女の顎から額に向かって、唾液のついた舌をなぞらした。 一瞬、彼女は周りの時間が止まったかのように感じた。 何度も瞬きをしながら、恐る恐る、自分の顔に触れる。 ──ぬちゃ、と気持ちの悪い感触がした。 「…………………………」
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