十一章

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「はは──」 「……。落ち着け。死神」 その人間は──白銀終夜は、狂った静寂の前に──鎌が振り下ろされる位置に、立っていた。 だが彼の存在に気づいていないのか、それとも気にしようとしないのか。 死神は一瞬動きを止めたが、すぐにまた鎌を掲げ、終夜のいる場所に向かって振り下ろした。 残り三十センチ──十五センチ──五センチ。そしてついに、鎌は終夜に到達した。 「……。落ち着けと、言っているだろ。静寂の死神」 鎌は終夜を切り裂かなかった。鎌は、終夜を切り裂けなかった。 彼の肩のところで、刃は止まっていた。服は切られているが、その下の皮膚は切れていない。 このとき、数時間ぶりに、図書室に静寂が訪れた。 死神も、剣帝も、道化も──誰ひとりとして言葉を発さない。 そして始めに、この静寂を破ったのは、死神だった。 「……………………」 長い無言の後、彼女は小さく「兄さん」と呟いた。 すると終夜は、そんな彼女に小さく「……。なんだ、秋巴」と答える。 秋巴は鎌を手放し、ふらっと終夜の胸元に寄り掛かる。 そして彼の耳元に顔を寄せ、また小さな声で「ごめんなさい」と囁く。 「また、私は……昔みたいに、なってしまった……。ごめんなさい、兄さん」 「……。昔に戻ることは、別に悪いことではない」 「……。ありがとう、ございます。あの、兄さん。暫くは、このままで、いさしてもらえますか?」 若干──いや、かなり頬を赤く染めて、秋巴は気恥ずかしそうに終夜に訊いた。 終夜はそれに対し、ああ、とたった一言で答える。 狂った死神は消え、少女が残った。 狂った少女は消え、ただの少女が現れた。 そしてまた、別の場所では──。 「うふふ、ふふふふふっ──ふははははは」 狂った悪魔が、笑っていた。  
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