十五章

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殴り飛ばされた絢の下へ向かおうとした秋巴を遮るように、彼女は立ちはだかる。 「邪魔です!」 秋巴らしくもない、ただ振り回したような攻撃。 それを容易に避け、彼女は鎌を振るって隙ができた秋巴に拳を放つ。 「ぐっ……」 かろうじて、鎌の柄の部分に拳を当てさせることができた秋巴だったが──あまりの力に、彼女は軽く吹き飛ばされた。 「っ、なんて力──」 「あたしはまだ弱いほう。貴女に力がないだけ」 吹き飛んだ秋巴に追撃をかけるのかと思ったが、彼女はしなかった。 それを不思議に思いながらも、秋巴は受け身をとり、体勢を整える。 「んふふ。良かった。吉菊様、ここにはいないみたい」 辺りを見渡し、彼女は死詬女吉菊が、この場にいないことを確認する。 「あの額の角……あれが鬼ってやつですか」 額に赤くて小さな角。両手首には錆びついた手枷がはめてあるが、鎖がちぎれているため、拘束具ではなくただの腕輪になっている。 ぶかぶかの黒い半袖のTシャツに、下は黒い長ズボン。 彼女は三代目虎熊。本部内で人無と戦った、鬼のひとり。 「ねえ。貴女が吉菊様と同じ裏の名?」 少し距離はあったが、秋巴には聞こえたようだった。だが彼女はその問いには答えず、無言で虎熊を睨みつける。 「……。人でない君と違って、お前は無口だね」 「貴女は少し喋り過ぎですよ」 いつの間に戻ってきたのか。虎熊に殴り飛ばされたはずの絢が、一瞬で彼女の背後に現れたかと思うと、先程のお返しと言わんばかりに、隙だらけの背中に向かって全力で蹴りを放った。  
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