十五章

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だが、まともに受けたはずなのに、虎熊は前のめりによろけただけだった。 「速いね、びっくりした」 「……私も驚きましたよ。今、結構強く蹴ったつもりなんですけど……」 「んふふ。お前といい人でない君といい、人間はあたしたち鬼をなんにも知らないんだね」 振り返り、彼女は楽しそうに笑みをこぼす。 「まあ、あたしもお前たち人間に詳しい訳じゃないけど」 「あなた、今さっき“吉菊様”とか言ってましたけど、彼女とはどういった関係なんです?」 鎌を虎熊の背中に突き付け、秋巴は少し早口で問いかける。 「どういった関係……? 本当に、何も知らないの?」 「知っていたら、わざわざ聞きませんよっ!」 ぶんっ、と虎熊の首元を狙って鎌を振るうが、虎熊それを軽くよける。 「あの方は……吉菊様は、あたしと一緒」 続けざまに攻撃してきた絢を軽くあしらい、虎熊は彼女たちから少し距離を置く。 「二代目虎熊……吉菊様は、あたしと同じ、鬼」 「──!」 「吉菊さんが……? ですが、あの人には──」 「お喋りはそこまでだ、虎熊」 三人の会話を遮り、近づいてきた男を見て、絢は目を見開く。 「また会ったな、小娘」 男の言葉は無視し、絢は即座に札を取り出すと、男に向かってそれを掲げる。 「開封『二連鎌鼬』」 一瞬札が光り、直後にヒュン、という空気を裂く音がした。 そのすぐ後、男の衣服は裂かれ、体のいたる個所に切り傷が走る──が、男はまったく気にしない様子で、腕を組み、絢を鼻で笑ってみせる。 「ふん。その程度では、鬼である俺に致命傷を与えることはできんぞ」  
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