一章

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この世界のある場所に、周りを高い壁で囲まれた街がある。 その街の中でも一際目立つ建物の屋根の上で、一人の青年が、剣を使って一心に素振りをしていた。 「九百九十八……九百九十九……千!」 最後に大きな声で叫ぶと、青年は一度溜め息をつき、仰向けに屋根に寝転ぶ。 「……これで、素振り千回×五十セット終わり──か」 どうやら、彼ははかなりの数の素振りをしていたようだ。 暫く寝ていた青年だが、突然その汗ばんだ身体を起こし、「よっと」と建物の屋根から飛び降りた。 建物の高さは五十メートルをゆうに越えている。 “普通なら”、このままいけば青年は確実に死ぬだろう。 「んー」 だが青年はそんな状況でありながら、下から上へと吹く風を、気持ち良さそうに身体に受けている。 そして残り二十メートル程で、地面に到達する位置に来たとき、青年は空中で「『風の誘い』」と小さな声で呪文を唱えた。 すると青年の周りを風が吹き荒れ始め、その風は彼を包み込んでいった。そして風に包まれながら、彼はゆっくりと地面に降りていく──。 その様子は、まるで青年が風に乗って降りている様に見えた。 「──着地成功っと」 青年は乱れた服を整えると、目の前にそびえ立つ建物の中に入っていった。 建物の入口には、《魔物対策本部》と大きく目立つように記されていた。   
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