一章

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奥へと進んだ青年は、ある一つの部屋の前で立ち止まった。 その扉には『部長室』と、なぜかピンク色の文字で書かれた看板が吊されている。 「相変わらず、この色は酷いよな……まあいいや。とっとと入るか」 青年が扉を二回ノックする。すると部屋の中から「入っていいぞー」と、低く間延びした声が返ってきた。 「失礼します」 扉を開き、彼は軽く頭を下げてから中に入る。 「よく来たのう、慎治」 部屋の中には、白い顎ひげを十センチくらい伸ばした、見た目は六十代程の老人が、入って来た青年と向かい合うように椅子に座っていた。 「本部長が呼んだんじゃないですか」 「ほっほ。そうじゃったな」 老人は顎ひげをさすりながら笑う。 「……それで本部長、俺になにか用ですか?」 青年──老人に慎治と呼ばれた彼は、口元を緩めている老人に、呆れたような表情を浮かべる。 「慎治よ。お主は学園に通っておったよな?」 「ええ、まあ一応歳は十七なんで」 「……学園での生活はどうじゃ? 楽しいか?」 「まあ、そこそこですね。まさか本部長、この話しの為だけに俺を呼び出したとかはないですよね?」 「そうじゃよ」 「帰ります」 慎治は無表情でそう言うと、身を翻して部屋から出て行った。 「ほっほっほ。相変わらず冗談の通じない奴だ」 老人は椅子の背もたれに寄り掛かりながら、部屋から出ていく慎治を見送った。  
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