8169人が本棚に入れています
本棚に追加
/490ページ
奥へと進んだ青年は、ある一つの部屋の前で立ち止まった。
その扉には『部長室』と、なぜかピンク色の文字で書かれた看板が吊されている。
「相変わらず、この色は酷いよな……まあいいや。とっとと入るか」
青年が扉を二回ノックする。すると部屋の中から「入っていいぞー」と、低く間延びした声が返ってきた。
「失礼します」
扉を開き、彼は軽く頭を下げてから中に入る。
「よく来たのう、慎治」
部屋の中には、白い顎ひげを十センチくらい伸ばした、見た目は六十代程の老人が、入って来た青年と向かい合うように椅子に座っていた。
「本部長が呼んだんじゃないですか」
「ほっほ。そうじゃったな」
老人は顎ひげをさすりながら笑う。
「……それで本部長、俺になにか用ですか?」
青年──老人に慎治と呼ばれた彼は、口元を緩めている老人に、呆れたような表情を浮かべる。
「慎治よ。お主は学園に通っておったよな?」
「ええ、まあ一応歳は十七なんで」
「……学園での生活はどうじゃ? 楽しいか?」
「まあ、そこそこですね。まさか本部長、この話しの為だけに俺を呼び出したとかはないですよね?」
「そうじゃよ」
「帰ります」
慎治は無表情でそう言うと、身を翻して部屋から出て行った。
「ほっほっほ。相変わらず冗談の通じない奴だ」
老人は椅子の背もたれに寄り掛かりながら、部屋から出ていく慎治を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!