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◆
「……。着いたな」
魔物対策本部で、慎治が本部長と話し終えた頃。
森から転移してきた終夜は、慎治がいる都市の、ある一軒の家の前に現れた。
「懐かしい。何年ぶりだ、“偽物”とはいえ、我が家を見るのは」
(魔法大戦が起きた以来ですから……。大体三年くらいじゃないですか? マスター)
「三年か。あの人たちは元気にしてるかな」
終夜は微かに笑みを浮かべながら、目の前にある家の扉を開ける。
「あら、どちら様でしょうか……」
入ると、そこには三十歳前半くらいの女性が立っていた。
女性は終夜を見ると、目を見開き、驚きの表情をしながら終夜を見つめる。
「……。ただいま」
「──はっ」
女性は一瞬はっとした後、「あなたー! 終夜が帰って来たわよ!」と叫びながら、家の奥に消えて行った。
終夜は無言で女性の後を追うと、その先には先程の女性と同じくらいの歳の男性が、ソファーにだらし無く座りながらテレビを観ていた。
「おう、帰ったか、終夜」
「ああ」
「そうか。まあ、無事でなにより」
「少しでもそう思うっているならこっちを向け、ハゲ」
「俺はハゲてないぞ!」
頭を押さえながら終夜を振り向く男性。彼の言う通り、まだ髪の毛はある。
(マスター、さすがにまだ髪がある人にハゲは酷いと思いますよ)
「別に構わないだろ、氷劉。もうすぐ現実になるんだから──ところで、お袋は?」
「あいつなら、終夜が帰ってきた! 今晩は御馳走よ! とか言って買い出しに行った」
「……、晩飯まで寝る。部屋は弄ってないんだろ?」
「ああ、前のままだ」
終夜はその言葉を聞くと、階段を上り、四つある部屋の内の一つに入っていった。
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