勇者の凱旋[序章]

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雨の降り続く土曜日、7時間以上にも及ぶ手術を乗り越え一晩ICUで過ごした父は、車椅子に乗ってではあるが、女性看護師さん二人を引き連れ、満面の笑みをたたえて病室に戻ってきた。あたかも戦場から凱旋した兵士のように。 迎えるこちらは、母も兄も自分も、顔が引きつってないか確認しながら、「お疲れ様です」「お帰りなさい」「大変やったね~」。 最近の麻酔技術は相当進歩しているようで、胃袋の9割以上とその周辺部の相当範囲を摘出したにもかかわらず、痛みが殆ど無いらしい。 70を大きく過ぎているにもかかわらず病気らしい病気をしてこなかった父は、手術に挑むにあたって、カナリ不安を抱えていたので、この痛み感じない状態に満足しており、先ほどの満面の笑みに繋がったのだろう。 最初の予定では、胃袋は全部取る予定であった。 さすがに、全身に7~8本の管を体に差し込まれた状態の父は、自力ではベッドに移れず、手伝ってくれている看護師二人に終始にこやかに冗談を言い、上機嫌である。その姿を見ながら、17時間前の光景が、父の姿と二重写しになり胸を苦しめた。 やばい、顔、引きつってへんかな?
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