姿を現した悪魔

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姿を現した悪魔

手術室脇の小さな打ち合わせ部屋。 執刀医が目の前に座り切除した父の胃を手にしていた。 胃と言うより悪魔。胃の入り口を少し残した事の説明から行われた。全摘では無かったの? 転移は? 執刀医は、更に慎重に、言葉を選びながらやさしい口調で語っていた。パニックを起こすのを必死に抑えながら聞いたその説明は、非常に丁寧な説明ではあったが、断片的な記憶となっており、父を目の前にしながら、その言葉が頭の中で繰り返されていた。 完全除去は出来なかった・・・ 腹膜転移 切除不能 ステージ4 (外科的)根治不可能 MST? 生存期間中央値(Median Survival Time)? 13ヶ月・・・ 13ヶ月。 3ヶ月の人もいれば、13ヶ月以上の人も・・・うろたえた母が何度も何度も同じ質問を繰り返したが、執刀医は嫌な顔ひとつ見せず丁寧に何度も説明を繰り返した。その度に、暗闇の底へ引きずられるような気がしたが、幾度目かの説明が終わる頃には、窓ガラスに映った自分が、ひきつった笑顔で執刀医を見ている事に気づき吐き気を覚えた。 泣くの我慢しとったはずやのに。 オトンの顔見るとき、これからはずっと笑っとこ。 13ヶ月 50% この段階で告知が決められた。
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