プロローグ

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プロローグ

雨が降っていた。 石で出来た四角形が無数に立ち並ぶ中、一本の黒い傘が花を咲かせている。 「よぉ、元気……な訳ねぇか。死んでんだから」 傘の中の少年はそう言って笑おうとするが、言葉が喉につっかえて出てこない。 代わりに、彼は傘を持たない左手を力強く握り締めた。 「俺強くなるぜ。今日から俺が大黒柱だからな」 ゆっくりと、力付くその言葉を絞り出した少年。 返事は無かったが、彼は静かに笑う。 「まぁ楽なもんだよな。お前は三人守んなきゃいけなかったけど、俺は二人でいいんだからよ。そう思うだろ、なぁ親父」 返事はなかった。 少年は傘越しに空を見上げるが、黒い生地は何も見せてはくれなかった。 雨が降っていた。
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