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「……巻き込んでごめんなさい」
少女は一言だけ呟く。
呟いた少女の瞳は燃えるように紅い光を放ち、暗闇の中で猫の瞳のように浮かび上がっていた。
だが、その強い輝きの中に、わずかに影が差している。
アキトはその瞳に、言い様のない悲しみのようなものを感じた。
凄く寂しい目だ。
アキトはその眼差しに、幼少の頃の自分を重ねた。
アキトは言葉に詰まり、甦る過去の自分の姿に、自然と視線が落ちる。
少女はしばらくアキトを見つめていたが、また歩き出そうとした。
アキトに背を向け、少女が暗闇にまた一歩踏み出す。
パシッ。
少女がさらに一歩踏み出したその時、少女の手が引かれた。
少女が怪訝な面持ちで、後ろを振り返る。
そこには少女の手をとるアキトの姿があった。
「まだ私に何か用なの?」
少女はアキトの手を振りほどくと、無機質な眼差しでアキトを見据える。
「その……」
アキトは言いよどんだ。
自分でも、なんで引き留めたのかわからない。
アキトは少女から視線を反らし、後ずさった。
少女はじっと、アキトの次の言葉を待っている。
「……えっと、さっきのアレは何?」
少女はアキトの言葉に少し考えて、話し始めた。
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