契約成立

4/11
637人が本棚に入れています
本棚に追加
/568ページ
「……巻き込んでごめんなさい」 少女は一言だけ呟く。 呟いた少女の瞳は燃えるように紅い光を放ち、暗闇の中で猫の瞳のように浮かび上がっていた。 だが、その強い輝きの中に、わずかに影が差している。 アキトはその瞳に、言い様のない悲しみのようなものを感じた。 凄く寂しい目だ。 アキトはその眼差しに、幼少の頃の自分を重ねた。 アキトは言葉に詰まり、甦る過去の自分の姿に、自然と視線が落ちる。 少女はしばらくアキトを見つめていたが、また歩き出そうとした。 アキトに背を向け、少女が暗闇にまた一歩踏み出す。 パシッ。 少女がさらに一歩踏み出したその時、少女の手が引かれた。 少女が怪訝な面持ちで、後ろを振り返る。 そこには少女の手をとるアキトの姿があった。 「まだ私に何か用なの?」 少女はアキトの手を振りほどくと、無機質な眼差しでアキトを見据える。 「その……」 アキトは言いよどんだ。 自分でも、なんで引き留めたのかわからない。 アキトは少女から視線を反らし、後ずさった。 少女はじっと、アキトの次の言葉を待っている。 「……えっと、さっきのアレは何?」 少女はアキトの言葉に少し考えて、話し始めた。
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!