クレセント レーヴァテイン

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日曜日の朝。 剣道部の少年が一人、部活道具を担ぎながら通学路である太い通りを歩いていた。 服装は紺のブレザーに灰色のチェックのズボン。 それは中学生によく見られる制服であり、その胸元には鮮やかな赤に校章の入ったネクタイが下がっている。 細身な体つきのその少年の名前はアキト。 アキトは左右非対称の長い前髪から覗く、左目を覆うように巻かれた包帯に触れた。 次いでふぅと、一息ついて辺りを見回す。 そこに人の気配は無く、人の往来の途絶えた交差点を見下ろす信号機が、虚しく点滅を繰り返している姿が目についた。 アキトはその光景を見て、おかしいなと首をかしげる。 この時間帯なら人がいてもいいはずなのに、まだ誰の姿も見てない…… アキトは再度辺りを見回すが、やはり人影一つ見えない。 国道にも続き、普段は人や車の行き来が絶えない通りなのだが、アキトはまだ車の一台すら見かけてはいなかった。 今の時刻は8時少し前。 休日とはいえ、別段早い時間でもない。 生ぬるい風がアキトの頬を撫で、辺りを包む不気味な静寂がアキトに重くのし掛かる。 時折耳に響く木の葉のざわめきが、静まり返ったこの空間でいやに大きく聞こえた。 アキトは違和感を感じながらも、それを振り払うように首を振って、また歩き出す。
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